Accueil / 恋愛 / 唇を濡らす冷めない熱 / 言えない、その我儘 3

Partager

言えない、その我儘 3

Auteur: 花室 芽苳
last update Date de publication: 2025-10-22 12:40:30

「なんていうか、横井《よこい》さんのそういう優しいところは嫌いじゃないよ。でもね、俺だって好きな女の子のあんな場面を見て冷静でいられるほど人間出来ていないんだ」

 そんな嘘をつかないで! あの時の梨ヶ瀬さんはいつも通り落ち着いていて、すごく余裕の表情だったじゃないの。むしろタイミングを狙ってきたかのようで、最初から分かってたんだろうって疑いたくなったほどだ。

「そうでしょうか? 十分冷静だったと思いますよ、さっきの梨ヶ瀬さんは」

「……うん、気にしてほしいのはそこじゃないんだけど」

 じゃあどこをどんな風に、気にしてほしいんですか? 遠回し過ぎて分かりにくいんですよ、本当に!

 そんな恨みがましい目で梨ヶ瀬さんを見上げたら、絶対勝てないようなまぶしい笑顔で返されてしまった。

 ……いったい何がしたいのだろうか、この人は。

「ああ、面倒くさい……」

 ぽそりとそう呟くと、梨ヶ瀬《なしがせ》さんは指先で私のおでこをピンと弾く。どうやら私の発言が少し気に入らなかったようだ。

 梨ヶ瀬さんの言いたいことに全く気付いていないわけではないけれど。でもそれを口にすると、ますます追い詰められて逃げら
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • 唇を濡らす冷めない熱   許さない、あの過ち 8

     それでも繰り返し、頭の中で繰り返されるあの時の光景。何よりも許せないのは、自身の行動によって他人が傷付くと分かっていたのにそれを止められなかった事で。 結局のところ……臆病者の私はどれだけ強がっていても、その事実を知られ梨ヶ瀬《なしがせ》さんに軽蔑されるのを恐れているのだと思う。 だけど今はそんな事をぼんやり考えていられる状況ではなくて、好機とばかりに想いを伝えようとしてくる梨ヶ瀬さんから逃れようと必死になっている。「そうやってすぐに急かすのは止めてください、待てない男は嫌われますよ?」「そう? 俺は結構慎重派だから、ある程度は麗奈《れな》の気持ちが傾くまで待ってたと思うけど。それに……待ちすぎてせっかく来ていたはずのチャンスまで逃してたら間抜けでしょ?」 分かってる、梨ヶ瀬さん相手に口で勝とうとするのが間違いなんだって。この人はちゃんと気付いてるんだもの、私が彼にもう惹かれ始めてしまっている事を。 自分の過去から目を逸らし、それを隠したまま梨ヶ瀬さんの気持ちに応えられればきっと楽なのに。そんな考えが頭を過る自分の汚さに、どうしようもなく情けない気持ちになる。 だいたい……そうやって誤魔化してまで付き合っても、いずれ梨ヶ瀬さんには隠し通せなくなるに決まってるのに。「梨ヶ瀬さんにとってのチャンスが私にはそうではない場合、どう答えるのが正解なんでしょうね?」「はぁ……麗奈は、それを俺に聞くんだ?」 私としては彼の気持ちに応えたいが、それが気持ちの面で難しい事を伝えているつもりだったのだけど。急に梨ヶ瀬さんの表情が微妙なものに変わって、何か変な事を言ってしまったかと戸惑ってしまう。 しかし自分の言葉をよく思い出してみると、誤解されるような発言をしていたことに気付いて。「あのっ、違いますからね!? 私は梨ヶ瀬さんへの断り方を聞いてるわけじゃなくて……」「はあ。それなら良かったよ、もの凄く遠回しにフラれてるのかと思ったから」 気持ちに応じることが出来るかと聞かれても、すぐに『はい』とは言えるわけではない。だけど本心では、このままこの人に心許してしまいたくもあって。 もしも、梨ヶ瀬さんが私の望む言葉をくれるなら? いいえ、きっと今は優しい彼もあの事を知れば私を軽蔑するに違いない。誰かに期待なんて……してはいけないのだから。「梨ヶ瀬さんは遠回し

  • 唇を濡らす冷めない熱   許さない、あの過ち 7

     これは冗談とかではなく、この人は人道りの多い道路で平気でこんな事を言っているのだ。他の通行人がこちらの会話を聞いているとは思わないが、彼の甘い台詞のせいで顔が熱くなり真っ直ぐ前を向けなくて。 そんな様子の私を見て、心底嬉しそうな顔をするのは止めて欲しいんですけど。「うん、そうだね。そんな麗奈《れな》の可愛い顔は、俺だけで独り占めしてたいかな?」「……っつ! 貴方は、またそういう恥ずかしい事を!」 流石にこれ以上、甘い台詞には耐えられそうにない! そう思ってグッと顔を上げ片手で梨ヶ瀬《なしがせ》さんの頭を叩こうとしたが、すぐにその腕を掴まれて。そのままズンズン歩き出した彼に、強引に引っ張られてどこかへ連れて行かれる。「ちょっと、梨ヶ瀬さん!? いきなりどこに連れてくつもりなんですか?」「今すぐに二人きりになれるとこ。場所を選べば口説いて良いって、さっき君が言ってくれたからね」 それは違うでしょ!? そういうセリフは、時と場所を選んで言ってくださいって意味でしょうが! ……んん、いや? 私が言った言葉だと、そういう事になるのかもしれない。ああ、だんだん私の頭が混乱してきた気がする。 私がぐるぐるしている間に彼はホテルのロビーで受付を済ませ、いつの間にやらモダンな部屋のソファーに二人並んで座っていた。「……ええと、どうしてこうなってるんでしたっけ?」「そうだね、今日こそ麗奈から良い返事をもらうためにかな? 今日の運勢は大吉だったし、少しくらい強引にいこうかと」 いやいや、梨ヶ瀬さんの今日の運勢とか私にはどうでもいいですし? まずどうして今日は、良い返事がもらえると確信してらっしゃるんですかね。 なんかもう頭が痛いを通り越して、中身が全部真っ白くなりそうな気がする。本当に私がいろいろ気にしてるのが、馬鹿馬鹿しくなってしまうのに。 どうして私はまだ、あの日のあの過ちに捕らわれたままなのだろう? 今もそれを許すことが出来ないで、心があそこに留まっている。  今の自分には、こんなにも心を揺さぶってくる人が現れたというのに。その想いに応えることもせずにズルズルと引き伸ばしてる、そんな狡い自分がここにはいて。 もし……そのうちに梨ヶ瀬さんが私に興味を無くしたら、後悔するのは間違いない。素直になってみてはどうだと、私の中で葛藤が生まれる。 一歩、

  • 唇を濡らす冷めない熱   許さない、あの過ち 6

     それはそれは、見た目と中身にギャップが有り過ぎてとても残念です。その時や場合に応じて軽めの恋愛を楽しんでそうな雰囲気なのに、想像以上に梨ヶ瀬《なしがせ》さんはしっかり真剣交際をしたいタイプらしい。 だから、なおさらこの人の相手が自分じゃ駄目な気がして……「私は梨ヶ瀬さんが思ってる程、価値のある女ではないと思いますよ?」「俺の中での麗奈《れな》の価値は、君じゃなく俺が決めるものだよね? 少なくとも自分にとって麗奈は、唯一無二の存在だし」 何を言っても全部こうして返してくるから、興味を無くしてもらう事も出来ない。諦めが悪いと自負しているだけあってか、それはもう手強すぎて。 梨ヶ瀬さんは私には勿体ないくらい素敵な男性だって、自分でも分かってるけれど……どうしてこの人は、もっと自分に合った女性を選ばないんだろう? 仮に付き合ったとしても、きっといつか私にがっかりするに決まってるのに。「ねえ、またうだうだ難しく考えてるでしょ? どうして麗奈は好きか嫌いか、それだけで俺を見てくれないんの。俺は君の何だって、受け止める覚悟はあるんだけど?」「……そんな簡単な問題じゃないでしょう?」 何度もそう言ってくれるけれど、答えがそんな簡単な事だとは思えない。全部の問題をクリアーにして、梨ヶ瀬さんだけを見れたら……その時の、答えは予想出来るけれど。 その感情を認めてしまったら、私はきっと身動きとれなくて余計に苦しくなってしまうから。 なのに……「簡単だよ、難しくしてるのが麗奈なだけで」 そんな風に、何も気にしてないように言うから。「そうなのかもしれないって、自分でも分かってはいるんです。梨ヶ瀬さんの言うように出来れば、きっとずっと生きやすいだろうなと思いますし。でも……私が許せないのは多分、自分自身なので」「その理由は、俺に聞かせてもらえないの?」 その答えも本当は分かってるくせに、そうやって聞いて来るんですよね。少しでも可能性があれば諦めない、その言葉は嘘じゃないって何度も繰り返すように。 素直に言ってしまえば楽になる。そう誰かが囁いても……結局は怖くて言えないの、この人に軽蔑されるかもしれないから。「それを隠したままでは、俺と付き合えない。そう考えてしまうところが、麗奈らしいとは思うけれど。正直な気持ち、好きな女性にいつまでもそんな顔をさせておきた

  • 唇を濡らす冷めない熱   許さない、あの過ち 5

     これ以上、眞杉《ますぎ》さんと鷹尾《たかお》さんの前で揶揄われたら堪らない。そう思った私は、適当な理由を付けて二人と別方向へと歩き出す。梨ヶ瀬《なしがせ》さんにはわざと声を掛けなかったが、どうせあの人は勝手について来るだろう。 どうしてこんな私に執着するのか、何度聞いてもよく分からないけれど。少しずつ信頼するようになって、今では一番この心を揺らす存在になった。「もしかして俺の存在を忘れてるの、麗奈《れな》?」「むしろ存在を忘れさせてくれるような人なら、凄く良かったんですけどね」 存在感が有り過ぎなくせによく言うわよ。私は梨ヶ瀬さんが支社に来て以来、一日だってこの人の事を考えずに済んだ日なんてないのに。 こっちは嫌味でそう言ったのに、梨ヶ瀬さんはその言葉に満足そうな顔をしていて。 ああ、本当に面倒な人と距離を縮めてしまってる。後悔しても、もう後戻りが出来ないところにまで来てる気がして……「ちょっとずつだけど、麗奈の心に俺が存在する割合が増えてるみたいで嬉しいかな」「もう充分過ぎるくらいなんですけどね、どれだけ占領すれば気が済むんです?」 仕事でもプライベートでも無理矢理関わってくるくせに、これ以上を望むというの? そんなベタベタした関係を、この人が好むようには見えないんだけれど。「それはもちろん全部だよ、俺は麗奈を独占したい」「……っ!?」 ああ、もう! 本当にこの人といると頭がおかしくなりそう! こんな蜂蜜みたいに甘い言葉を平気で言えちゃうし、重いくらいの束縛宣言までしてくるんだから。 爽やかさなんてどこかに飛んでいくくらいの激重感情を持っている、そんな梨ヶ瀬さんから逃げられる気がしなくて。 素直になれればきっと楽なはず、彼なら私のどんなところだって受け入れてくれると思いはするのに。 それでもまだ、許せないのは自分自身で。 ……今もまだ記憶から消すことも出来ない、あの日の過ち。 梨ヶ瀬さんはもちろん、紗綾《さや》や御堂《みどう》さんにも話せないまま私の中で今も燻り続けてる。 軽口で周りに愛想を振りまくことも、流行の好きなミーハーなキャラでいるのもそう難しくはないのに。誰かに甘えることが簡単に出来ないのは、それが関係しているからだと思う。 そんな私を梨ヶ瀬さんは、本当にいつまでも可愛いと言ってくれるのだろうか?「……正直、

  • 唇を濡らす冷めない熱   許さない、あの過ち 4

    「ええっ? 今からですか、でも……」 この状況ならば、眞杉《ますぎ》さんが迷うのは分かっていた。でもここでは、女友達と言う立場を最大限利用させてもらうことにして。コテンと首を傾げ、彼女に甘えるようにその細い腕を掴んで見せる。 そうやって眞杉さんを鷹尾《たかお》さんから引き離して、私の方へと引き寄せる。そして……「ちょっと聞いてみたんですけど、どうやら今しか空きが無いらしいんです。私、どうしてもその店で眞杉さんと二人きりで話をしたくて」「まあ、そうなんですか? 鷹尾さん、梨ヶ瀬《なしがせ》さん! すみません、ブックカフェはまた今度にしてもらっていいですか?」 ほら、見なさい。眞杉さんの優先順位が、鷹尾さんから私に変わっちゃいましたよ? このままでは男二人がこの場に残されることになるが、さて鷹尾さんと梨ヶ瀬さんはどうするかしらね。 そうやって余計な事ばかりを話している男たちを、ちょっとだけ懲らしめてやる。 それくらいのつもり、だったのだけれど……「ああそうだ、横井《よこい》さん。昨夜の事はまだ眞杉さんには話さないでね?」「――っ!!」 まさか不意打ちで、そんな事を言われるとは思ってなかった。一瞬で昨日の夜の事が頭に浮かんで、あっという間に顔が熱くなるのが分かる。 ……こ、この人は本当にとんでもないわ!「ん、昨夜の事って? え、なになに? もしかして二人、何かあったりしたとか……」「鷹尾さんはそうやって、余計な事ばかり気にしなくていいですから!」 こう言う時だけ、嬉々として話を聞き出そうとしないで! 鷹尾さんがいま気にするべきなのは、隣にいる眞杉さんの事だけですよ。 少しくらい焦ればいいと思って言いだした事なのに、まさか梨ヶ瀬さんにこんな風に返されるなんて。「……あの、大丈夫ですか? 横井さん、顔が真っ赤になってますよ」「平気ですよ、頭に血が上ってるだけですから。主に誰かさんへに対する怒りでね」 そう言って睨んでも梨ヶ瀬さんは相変わらずの余裕の表情、本当にむかつく。オロオロと私達を交互に見てる眞杉さんが可哀想になって、仕方なく鷹尾さんに後は任せる事にした。「眞杉さん! 今度は絶対、私と二人きりでお茶しましょうね。邪魔者がいないときに!」「邪魔者って誰だろうね、鷹尾は知ってる?」 私はいま、眞杉さんに話しかけてるん

  • 唇を濡らす冷めない熱   許さない、あの過ち 3

    「へえ、鷹尾《たかお》もやるじゃないか。俺たちも負けていられないね」「そうですね、私も鷹尾さんには頑張って欲しいと思います。ただ彼と勝負がしたいのならば、梨ヶ瀬《なしがせ》さんお一人でどうぞご勝手に」 そう言ってニコニコと微笑む彼に、氷水のように冷たい言葉を頭から遠慮なくぶっかけてあげておく。 そのはずなのに……「結局、私たちも一緒に行くことになるんですね。せっかくのチャンスだったのに、鷹尾さんって本当に……」「いざとなると意気地がないよね、まあそれが鷹尾らしいんだけど」 目の前を鷹尾さんと眞杉《ますぎ》さんが並んで歩いている、私たちがついてくる必要はどこにあったのだろうか? 新しいブックカフェには興味あるが、鷹尾さんにもそろそろ本気を出して欲しいのだけど。 眞杉さんだって彼の事を嫌ってなどいない、もう少し押せば良い返事がもらえると思うのだけれど。 分かっていることだけど、この二人は見ていて本当にじれったい。「さっさと告白して付き合ってしまえばいいのに、とは思ってます。両思いなのは分かりきってるんですから、見ていてもどかしい」「……それと全く同じことを、あの二人も考えてると思うよ」 そうなんだ、じゃあ尚更さっさと恋人同士になればいいのに。では何故そうしないのか、私にはよく分からないな。 なんて思っていると……「なんですか、ジッとこっちを見て。いまのは鷹尾さんと眞杉さんの話ですよね?」「そうなんだけど、麗奈《れな》には通じてないんだなって。じれったいからさっさと付き合えって、鷹尾に言われたのは俺の方だしね」 ……はい? じれったいのは鷹尾さんたちの方じゃないの? 鷹尾さんたちから見ると私と梨ヶ瀬さんがそういう風に見えるんだって気付かされて、ものすごく頭が痛くなってしまった。「そんな周りに口出す余裕が鷹尾さんにあるのならば、私達ももう少し彼らの為にお世話を焼いてあげてもいいかもしれませんね。眞杉さーん、ちょっといいですか!」「……え、ちょっと!? 横井《よこい》さん、いったい何をするつもり?」 驚いている梨ヶ瀬さんを無視して、私は眞杉さんの隣へと移動した。そのまま彼女に『ある事』をこっそり囁いてから、ゆっくりと鷹尾さんに視線を移す。 思った通り鷹尾さんは私の行動に驚いているので、わざと彼を見て綺麗に微笑んで見せてやった。 いいで

  • 唇を濡らす冷めない熱   伝えない、その想い 5

     右手はそのままにゆっくりと起き上がると、ベッドの端に頭を乗せたままの姿勢で眠る梨ヶ瀬《なしがせ》さん。 始めは器用に寝てるなと思ったが、梨ヶ瀬さんのその服装を見て驚いた。 春先とはいえまだかなり寒いのに、彼は白いシャツ一枚しか着ていない。こんな格好で寝ていたら、絶対に風邪をひいてしまう。「ちょっ、この人馬鹿なんじゃないの!?」 私は慌てて、ベッドに置いていた予備の毛布を広げて梨ヶ瀬さんの背中にかける。これでもまだ寒いだろうが、さっきの状態よりはましなはず。 それにしても……「あれから帰らなかったん

  • 唇を濡らす冷めない熱   伝えない、その想い 4

     またそんなこと言うので、呆れそうになる。何度言っても梨ヶ瀬《なしがせ》さんは、伊藤《いとう》さんをライバル視するのを止める気はないらしい。 伊藤さんはまだ紗綾《さや》の事が好き、そう説明しても梨ヶ瀬さんには納得出来ないのだろうけれど。「はあ……そうですか、それは無駄な心配までご苦労様です。そうやって伊藤さんに面白がられている事に、気付かない梨ヶ瀬さんではないと思うんですけどね?」「そうさせてるのは君でしょ? 俺は麗奈《れな》の事では、余裕なんかこれっぽっちも無いのに」 そう話す梨ヶ瀬さんの表情には本当に余裕なんか見えなくて、彼が嘘なんてついていないのが分かる。本当にこんな私なんかの

  • 唇を濡らす冷めない熱   伝えない、その想い 3

     目の前がぼんやりして涙が溢れて零れそうになる。こんな時に傍にいるのが、梨ヶ瀬《なしがせ》さんなんて本当に最低。 ……涙なんて絶対見られたくない相手なのに。 それなのに梨ヶ瀬さんが肩を抱き寄せ頭を撫でるから、ぽろぽろ涙が頬から顎へと伝い流れていく。「うん、いくらでも怒っていいから。だから泣き止んでよ、横井《よこい》さん」 こういう時にそんな優しくされて、泣き止めたら苦労しません! 私をあやすような優しい手つきに腹が立つのに、目から零れる涙は止まりそうになくて……「嫌です、責任とって梨ヶ瀬さんが泣き止ませてください。ふっ……うっ、う……」 この熱に浮かされた頭は、いつものように正常

  • 唇を濡らす冷めない熱   伝えない、その想い 2

    「……え? 今なんて言いました、梨ヶ瀬《なしがせ》さん?」 聞き取れなかった言葉をもう一度頼もうとしたのに、その後に聞こえてきたのはプーッ、プーッ……という機械音だけだった。 どうやら私は、とうとう梨ヶ瀬さんにも愛想をつかされてしまったらしい。その事が思ったよりショックだったのか、私はそのまま力なくベッドへと横になった。【ピンポーン……】 ……インターフォンの音で、目が覚める。 熱の所為か頭がぼんやりしていて、それが夢なのか現実なのかの区別がつかなくて、もう一度枕に顔を埋めてしまった。  外はまだ暗い。こんな時間にインターフォンを鳴らすような馬鹿は、知り合いにいないはずだと思って

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status